おしえて!小麦ごはん
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小麦食文化ことはじめ
人類が小麦を栽培して食べるようになったのは、今から1万年もの昔のこと。ただ砕いて焼いて食べていた時代からはじまり、道具や技術の発達とともに、小麦粉を使っておいしいパンが世界各地でつくられるようになりました。
小麦栽培は1万年前に西アジアではじまった
人類が初めて麦類を栽培するようになったのは、紀元前8000~7000年ごろ。西アジアの「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる、イラン西南部からアナトリア高原、レバノン山麓を結ぶ地域だとされています。
パンや麺の原料となるパン小麦は、紀元前5000~4000年ごろにはドナウ川とライン側流域、南ロシア一帯、そして紀元前3000年ごろには北アフリカやヨーロッパ全域に広まりました。東方へは、紀元前2000年にインドや中国、4世紀に朝鮮半島、そして日本へは8世紀以前、おそらく4~5世紀に伝わったと推定されています。新大陸へは16世紀に伝わり、17世紀にアメリカ、18世紀にオーストラリアへ伝えられました。
小麦の伝播経路 出典:星川清親「新編食用作物」(養賢堂, 1980.4) より作成
おかゆ~無発酵パン~発酵パンへ発展していった麦食
今から1万年~8500年ほど前の先土器・新石器時代には、麦に豆や雑穀が混ざったものを石と石のあいだに挟んで粗く砕いてから、焼いて食べていました。
紀元前6500年ごろになると土器が使われはじめ、おかゆ状に麦を煮て食べるようになります。このころは、収量が多くおかゆに適した大麦のほうが食されていました。やがて、そのおかゆがこぼれて焼け焦げたものを平焼きにして食べるようになり、無発酵パンの原形ができました。紀元前6000~4000年のことです。
紀元前3000年ごろ、石臼が改良されて、外皮を除いたきれいな粉ができるようになると、おいしさを求めて、大麦と小麦の位置は逆転。小麦の粉を使うようになって、パンづくりは大きく進歩しました。あるとき、生地をつくったまま放っておいたら大きく膨らんでしまい、それを試しに焼いてみると、これまでよりも香ばしくて、やわらかいパンになりました。これが発酵パンのはじまりです。この後もパンは古代エジプトで発展し、ギリシャから古代ローマにわたって、広くヨーロッパに普及していきました。
Column 豊穣のシンボルだった小麦(穀物)の女神たち
農耕社会は女性中心の社会。そのためか、豊穣や穀物を司る神は、その多くが女性です。エジプト神話のイシス、ギリシャ神話のデメテル、ローマ神話セレスなど、みな小麦を身につけています。日本でも『古事記』の大宣都比米売神や、『日本書紀』の保食神など、伝説の中に穀物の女神が登場します。古代の人々にとって、作物は神からの授かりもの。その中でも小麦は、豊穣のシンボルとして尊ばれていたのです。